共通テスト世界史にベルばら!問われたのは「漫画の知識」ではなく「ジェンダーと革命」の深い歴史だった
anatato.jp へ本日もお越しいただきありがとうございます!
耳で聞くだけで短時間に分かりやすく理解できる音声会話形式の動画はこちら
2026年共通テスト、試験会場に走った「革命」の衝撃
2026年(令和8年)1月17日に実施された大学入学共通テスト。その初日、「地理歴史・公民」の試験会場において、ある種の「事件」が起きました。
緊張に包まれた静寂の中、問題冊子をめくった受験生たちの目に飛び込んできたのは、無機質な統計グラフでも、難解な条文でもなく、あまりにも美しく、あまりにも有名な「あの瞳」でした。
「オスカル……!?」
そう、2026年度の「歴史総合、世界史探究」において、不朽の名作漫画『ベルサイユのばら』(池田理代子 作)が、正式な設問資料として採用されたのです。この事実は瞬く間にSNSを通じて拡散され、「ベルばら」「オスカル」がX(旧Twitter)でトレンド入りする社会現象となりました。
しかし、これは単なる話題作りのための「ネタ出題」ではありません。そこには、暗記偏重から「思考力・判断力」へと大きく舵を切った新課程入試の強烈なメッセージと、現代の歴史学が重視する「ジェンダー史」への深い問いかけが隠されていました。
本記事では、長年教育現場に携わってきた筆者が、今回の「共通テスト『歴史総合、世界史探究』ベルばら出題問題」の全貌を徹底解剖。単なる「漫画が出た」というニュースの裏側にある、出題者が受験生に突きつけた「真の問い」を解説します。
第1章:【徹底検証】共通テスト「歴史総合、世界史探究」における『ベルばら』出題の全貌
まずは、どのような問題が出題されたのか、事実関係を正確に整理します。一部の速報では「世界史の問題」と報じられていますが、正確には新課程科目である「歴史総合、世界史探究」での出題です。ここを履き違えると、出題意図を見誤ることになります。
1-1. 出題箇所と形式:第3問「歴史を伝える手段」
『ベルサイユのばら』が登場したのは、「歴史総合、世界史探究」の第3問、Aパートです。この大問は「歴史に触れるきっかけや歴史を伝える手段」をテーマとしており、以下の形式で出題されました。
- 資料提示:漫画『ベルサイユのばら』からの引用コマ(図1)。主人公オスカル・フランソワ・ド・ジャルジェが剣を抜き、「バスティーユへ!!」と叫んで民衆を鼓舞するシーン。
- 対比資料:当時のフランスの身分構成を示す風刺画など。
- 設問内容:漫画の会話文やシーンと、歴史的資料(オランプ・ド・グージュやナポレオン法典に関する記述)を照らし合わせ、考察させる問題。
1-2. 問1詳解:問われたのは「革命の時系列」と「因果関係」
問1では、漫画のシーン(バスティーユ襲撃)を基準として、歴史的事象を正しい年代順に並べ替える力が問われました。
- 選択肢II(革命前):「フランスが、アメリカ独立戦争に参戦した結果、財政難に陥った。」
※これが革命の遠因(アンシャン・レジーム末期)となります。 - 図1(革命勃発):「バスティーユ襲撃」(1789年7月14日)
※漫画で描かれたオスカルの号令シーンです。 - 選択肢I(革命進行):「ロベスピエールらが、公安委員会を通じて、反対派を粛清した。」
※いわゆる恐怖政治(1793年~1794年)の時期です。
このように、単に漫画を知っているかではなく、「アメリカ独立戦争(原因)→バスティーユ(開始)→恐怖政治(混迷)」という、フランス革命の大きな流れと因果関係を理解していなければ正解できない、骨太な問題でした。
第2章:【核心】オスカルを通じて問われた「ジェンダー史」と「オランプ・ド・グージュ」
本記事で最も強調したいのが、この第2章です。多くのメディアが「漫画が出た」ことだけに注目していますが、この出題の真価は「ジェンダーの視点から革命を問い直した」点にあります。
2-1. 男装の麗人オスカルと、実在した「女性の権利」の闘士
設問(問2および関連設問)には、オスカルというフィクションのキャラクターと対比するように、実在の女性革命家に関する記述が登場しました。
その人物とは、オランプ・ド・グージュ(1748-1793)です。
彼女は、1789年の『人権宣言(人間と市民の権利の宣言)』が、実際には「男性(homme)」の権利しか保障していないことを鋭く批判しました。そして1791年、あえて人権宣言と同じ形式を用いて『女性の権利宣言(女権宣言)』を発表。「女性は権利において自由であり、男性と平等に生まれる」と主張しましたが、最終的には反革命の嫌疑をかけられ、断頭台の露と消えました。
2-2. ナポレオン法典と家父長制の強化
さらに、問題では「ナポレオン法典(民法典)」における家族観についても問われています。
ナポレオン法典は近代法のモデルとなった画期的な法典ですが、ジェンダーの視点から見ると、「妻は夫に従わなければならない」と規定するなど、家父長制を肯定し、女性の法的権利を制限した側面を持っています。
2-3. 出題者が伝えたかったメッセージ
ここで出題意図が見えてきます。
- 男として生きざるを得なかった架空の女性、オスカル。
- 女性としての権利を主張して処刑された実在の女性、オランプ・ド・グージュ。
- そして、革命後に女性を家庭に縛り付けたナポレオン法典。
これらを並置することで、共通テストは受験生に対し、「フランス革命は『自由・平等』を掲げたが、それは『男性にとっての自由』であり、女性は排除されていたのではないか?」という、歴史の影の部分(ジェンダー格差)を考察させたのです。
これは、近年の歴史学のトレンドである「マルチパースペクティブ(多角的視点)」を反映した、極めて質の高い良問と言えます。
第3章:難易度は「やや難化」~漫画に油断した受験生への罠~
「漫画が出たから簡単だった」「ボーナス問題だった」という声も一部にはありますが、予備校各社の客観的なデータに基づくと、事実は異なります。
3-1. 予備校4社の分析結果
大手予備校の分析を見ると、今年の「歴史総合、世界史探究」は決して易しい試験ではありませんでした。
| 予備校 | 難易度評価 | 分析理由 |
|---|---|---|
| 河合塾 | やや難化 | 史資料の点数が増加し、資料同士を比較・読解させる問題が増えたため。 |
| 東進 | やや難化 | 思考力を要する問題が増加。 |
| 代々木ゼミナール | やや難化 | 分量・質のともに負担増。 |
| 駿台・ベネッセ | 昨年並み | 易化とは評価せず。 |
出典:リセマム:【共通テスト2026】地理歴史/公民の難易度<4予備校まとめ>
3-2. 「読ませる分量」の増加
『ベルばら』の漫画自体は読みやすいですが、同時に提示された条文やグラフ、そして設問文の文章量は膨大です。「歴史総合」特有の、複数の資料を突き合わせて最適解を導く情報処理能力が求められたため、平均点は伸び悩む可能性があります。
第4章:ネットの反応と著作権、そして「歴史総合」の未来
今回の出題は、教育現場だけでなく、SNSを中心とした社会全体に大きな波紋を広げました。
4-1. 「読んでおけばよかった」トレンド入りの真実
X(旧Twitter)では「ベルばら」「オスカル」がトレンド入りし、「読んでおけばよかった!」という後悔の声や、「脳内再生余裕でした」という歓喜の声が溢れました。確かに、漫画を通じて「当時の空気感」や「キャラクターとしての人物像」を知っていることは、心理的な余裕やイメージの想起に役立ったことは間違いありません。
しかし、前述の通り、正解に辿り着くには「オランプ・ド・グージュ」や「アメリカ独立戦争との因果関係」といった、教科書レベルの正確な知識(ハード・ナレッジ)が必須でした。「漫画さえ読んでいれば満点が取れる」というのは誤解であり、あくまで「漫画で興味を持ち、教科書で知識を固めた」受験生が最強だったと言えます。
4-2. 著作権とSNS拡散のリスク
一部のニュースサイトや個人の投稿で、問題冊子の漫画部分を撮影した画像がアップロードされていますが、これには注意が必要です。試験問題としての利用は著作権法で認められていますが、それをSNS等で拡散することは「公衆送信権」の侵害になる可能性があります。
また、ネット上では「特定の漫画を知っている層だけが有利になるのは不公平ではないか?」という議論も見られました。しかし、問題自体は漫画を知らなくても資料として読解すれば解けるように設計されており、公平性は担保されていたと評価できます。
第5章:『ベルばら』で学ぶ世界史のメリットと正しい学習法
今回の出題を機に、歴史学習における漫画の価値が再認識されました。ここでは、『ベルばら』を教材として活用する際のメリットと注意点を整理します。
メリット:感情が歴史を「物語」にする
- 複雑な派閥争いの理解:王党派、ジャコバン派などの対立が、キャラクターの人間関係として理解できます。
- 生活史のビジュアル化:当時の服装、武器、ヴェルサイユ宮殿の構造などが視覚的にインプットされます。
注意点:フィクションとファクトの区別
学習に際しては、以下の「史実との違い」を意識することが重要です。
- オスカルとアンドレ
- 架空の人物です。ただし、オスカルのモデルとなった「王妃に近い立場の軍人」や、フランス衛兵隊が市民側に寝返った事実は史実に基づいています。
- 首飾り事件
- 漫画では詳細に描かれていますが、史実としても王室の権威失墜の決定打となった重要事件です。
- ジェンダーの視点
- 今回のテストでも問われたように、「当時の女性がどのような制約を受けていたか」という視点で読み直すと、作品の深みが一層増します。
第6章:結論~「歴史総合」が目指す新しい学び~
2026年共通テストにおける『ベルサイユのばら』の出題は、単なる「アニメ・漫画文化の利用」にとどまらない、極めて教育的な意義を持つものでした。
それは、「資料(漫画)から歴史的背景を読み解く力」と、「ジェンダーという現代的な視点で過去を問い直す力」の両方を求めた、新課程「歴史総合」の理念を象徴する良問でした。
受験生の皆さん、そして歴史を愛する全ての皆さん。もし『ベルばら』を手に取る機会があれば、華麗なロマンスを楽しむだけでなく、その背後にある「オランプ・ド・グージュの叫び」や「ナポレオン法典の影」にも思いを馳せてみてください。そうすることで、歴史は単なる暗記科目ではなく、今を生きる私たちに繋がる「生きた物語」となるはずです。