【2026ミラノ五輪】なぜ日本代表は握手をしたのか?カーリング「コンシード」の真実と3-9の敗因分析

   

【2026ミラノ五輪】なぜ日本代表は握手をしたのか?カーリング「コンシード」の真実と3-9の敗因分析anatato.jp へ本日もお越しいただきありがとうございます!

耳で聞くだけで短時間に分かりやすく理解できる音声会話形式の動画はこちら

スライドショー動画で分かりやすく理解できる動画解説はこちら

2026年2月18日(現地時間)、イタリア・コルティナダンペッツォで開催されているミラノ・コルティナ冬季オリンピック。

カーリング女子1次リーグ、日本代表(フォルティウス)対 イギリス代表(チーム・ジャクソン)の一戦。

前日のイタリア戦の結果により、既に1次リーグ敗退が決まっていた日本代表。

しかし、彼女たちにとってこの試合は単なる「消化試合」ではなく、オリンピックという夢舞台で爪痕を残すための、そして応援してくれるファンへの感謝を込めた、誇り高き戦いでした。

深夜のテレビ中継を見守っていた多くのファンが、その結末を目撃しました。

第8エンド終了直後。

スコアボードは「日本 3 - 9 イギリス」を表示しており、まだ規定の10エンドまで2エンド(回)を残していました。

しかし、スキップの吉村紗也香選手をはじめとする日本チームは、ブラシを置き、手袋を外して、相手チームのフォース(ラスト投げ手)であるレベッカ・モリソン選手らに歩み寄り、握手を求めたのです。

「えっ? まだ試合時間は残っているのに、なんで終わっちゃうの?」
「最後まで諦めないのがスポーツじゃないの?」

SNS上では、驚きや戸惑い、そしてルールに詳しくない層からは「諦めるのが早すぎる」という声も上がりました。

野球の9回裏ツーアウトからの逆転劇や、サッカーのアディショナルタイムのドラマに慣れ親しんでいる私たちにとって、自ら負けを認めて試合を終わらせるこの光景は、どこか違和感を覚えるものかもしれません。

しかし、この「コンシード(Concede)」と呼ばれる行為こそが、カーリングが「氷上のチェス」と呼ばれ、紳士淑女のスポーツとして世界中で愛される最大の理由の一つであり、今回の日本代表の判断は、プロフェッショナルとして極めて冷静かつ礼節を重んじた行動でした。

本記事では、昨日のイギリス戦の結果を受けて検索が急増している「コンシード」について、その本当の意味、厳格なルール、そしてそこに込められた美しいスポーツマンシップ「カーリング精神」について、徹底的に解説します。

また、なぜ日本代表フォルティウスはあのタイミングで握手を求めたのか?

その背景にある「アイスの重さ」や「ショット成功率の苦悩」といった技術的なファクト、さらには2025年に発表された「2030年五輪に向けた新選考基準」との関連性にも踏み込み、単なる感情論ではない、深層のドラマをお届けします。

1. カーリングの「コンシード」とは?正確な意味と定義

まずは言葉の意味から正しく理解しましょう。

ニュースや実況中継では便宜上「ギブアップ」や「投了」と表現されることもありますが、カーリングにおけるコンシードは、もっと深く、ポジティブなニュアンスを含んでいます。

辞書的な意味とスポーツ用語としての「Concede」

英語の "Concede"(コンシード)は、主に以下の意味を持ちます。

  • (事実や敗北などを)認める
  • (権利や勝利を)譲歩する、譲る

カーリングにおいては、「自チームの負けを潔く認め、相手チームの勝利を確定させる行為」を指します。

重要なのは、これが「苦しいから逃げる」というネガティブな放棄(Give up)ではなく、「あなたのパフォーマンスは素晴らしく、今の私たちには覆せません。参りました」という、相手の実力を認める敬意(Respect)を含んだアクションであるという点です。

日本人に一番わかりやすい例えは「将棋の投了」

コンシードの概念を理解するのに最も近いのが、日本の将棋や囲碁における「投了」です。

将棋では、まだ「王将」が取られていなくても、プロ棋士は「これ以上どう指しても逆転不可能」と悟った時点で「負けました」と頭を下げます。

これを「最後まで指さないなんて失礼だ」「王様を取られるまで粘るべきだ」と怒る人は、将棋を知っている人の中にはいません。

むしろ、勝負の要所を理解しているからこその「潔い態度」として称賛されます。

カーリングのコンシードもこれと同じです。

勝敗が明らかになった盤面で、無意味な時間を費やすことはお互いにとって不利益であり、観客に対しても退屈な時間を提供することになります。

潔く負けを認めることが、プロフェッショナルとしての「グッドマナー」とされるのです。

具体的な手順と儀式

コンシードは、ただ「やめます」と言って終わるわけではありません。

そこには決まった手順と儀式が存在します。

  1. 判断: 負けているチームのスキップ(主将)が、チームメイトと相談の上、コンシードを決定します。今回のケースでは、スキップの吉村紗也香選手がチームメイトの小野寺佳歩選手らと言葉を交わし、判断を下しました。
  2. 意思表示: スキップがグローブを外し、相手チームに近づきます。
  3. 握手: 手を差し出し、目を見てしっかりと握手を交わします。この時、「Good Game(いい試合だった)」や「Congratulations(おめでとう)」と声をかけ合います。
  4. 終了: この握手が成立した瞬間、スコアボードに関わらず試合は終了となります。

2. なぜ途中で終わる?コンシードが行われる3つの厳格なルール

「でも、やっぱり最後までやった方が何が起こるかわからないじゃないか」と思う方もいるかもしれません。

しかし、カーリングには「途中で終わる」ことに合理性を持たせる、明確なルールと構造的な理由があります。

【ルール1】いつでも辞められるわけではない(ミニマムエンド規定)

実は、カーリングは「いつでも好き勝手にコンシードできる」わけではありません。

特にオリンピックや世界選手権のような、放映権やチケット販売が絡む大きな大会では、観客やテレビ局への配慮から「最低限プレーしなければならないエンド数」が決まっています。

  • 予選リーグ(ラウンドロビン): 第6エンド終了後からコンシードが可能。
  • プレイオフ(準決勝・決勝など): 第8エンド終了後から可能。

今回の日本対イギリス戦は予選リーグであるため、第6エンド終了時点からルール上はコンシードが可能でした。

しかし、日本チームは第8エンドまで粘り強く戦い、逆転の可能性を探り続けました。

第8エンド終了時点での決断は、大会規定(ミニマムエンド)を十分にクリアした上での、正当な手続きです。

出典:Curling 101: Rules - NBC Olympics

【ルール2】数学的な敗北(Mathematically Eliminated)

カーリングには野球やサッカーと違い、「1エンドで獲得できる理論上の最高得点」が存在します。

通常、ストーンは各チーム8個ずつなので最高8点ですが、実戦レベルでは相手のストーンもあるため、どんなにうまくいっても「ビッグエンド」と呼ばれる大量得点は3点から4点が限界です。

今回の試合、第8エンド終了時点の状況を見てみましょう。

  • スコア: 日本 3 - 9 イギリス
  • 点差: 6点
  • 残りエンド: 2エンド

残り2エンドで6点差を覆すには、例えば第9エンドで3点スチール(先攻で点を取る)、第10エンドでも3点スチールといった奇跡的な展開が必要です。

しかし、相手は世界ランク上位のイギリスです。

確実に守りを固めてくる相手に対し、これだけの得点を連続で奪うことは、確率論的にほぼ0%に近くなります。

これを専門用語で「数学的に敗退が決まった(Mathematically Eliminated)」状態と呼びます。

この状態で試合を続けることは、相手に対して「あなたたちがこれから初心者のようなミスを連続で犯すことを期待しています」というメッセージにもなりかねず、トップレベルの選手同士では失礼にあたると判断されます。

【ルール3】戦略的な判断(体力の温存とアイス管理)

オリンピックの予選リーグ(ラウンドロビン)は長丁場です。

約1週間にわたり、連日、時には1日に2試合をこなす過密日程です。

1試合は約2時間半から3時間。

スイーパー(ブラシで掃く選手)の運動量は凄まじく、1試合で数キロメートルのインターバル走を行うのに匹敵する体力を消耗します。

また、無駄に試合を続けることは「アイス(氷の状態)」を荒らすことにも繋がります。

カーリングの氷は非常に繊細で、プレーすればするほど表面の「ペブル(氷の粒)」が削れて変化します。

大会運営全体の進行をスムーズにするためにも、勝敗の決した試合を長引かせないことは推奨されているのです。

3. 【徹底分析】日本vsイギリス戦:なぜ第8エンドで決着したのか?

では、具体的に2026年2月18日の日本(フォルティウス)対 イギリス(チーム・ジャクソン)戦を、ファクト(事実)に基づいて分析します。

なぜこれほどの大差がついたのか、その裏には「見えない氷の魔物」が存在しました。

スキップ対決の明暗:58% vs 88%の衝撃

カーリングの勝敗の50%以上は、最後に投げる選手(フォース)の出来で決まると言われます。

現地メディアの報道によると、この試合のショット成功率(暫定値)には大きな開きがありました。

チーム チーム全体成功率 スキップ/フォース成功率
日本(フォルティウス) 約74% 約58%(吉村)
イギリス(チーム・ジャクソン) 約91% 約88%(モリソン)

※数値は現地メディア報道に基づく暫定値。
※英国はソフィー・ジャクソン選手がスキップ(主将)ですが、フォース(4投目)はレベッカ・モリソン選手が務めています。

吉村選手の成功率が50%台というのは、彼女の実力からすれば異例の低さです。

その原因は「アイスコンディションへの適応」にありました。

「読みが難しくアジャストできなかった」

試合後のインタビューで吉村選手は、「なかなか試合を通してアイスを読むのが難しくて…アジャストして投げることができずに…自分たちのペースがつかめなかった」と語っています。

カーリングの氷は、会場内の温度、湿度、観客の熱気によって刻一刻と変化します。

この日のアイスは、日本チームが想定していたよりも「曲がり幅」や「滑り具合」が微妙に異なっていた可能性があります。

一方、イギリスのフォース、レベッカ・モリソン選手は、この難しいコンディションに素早く適応し、ドローショット(円の中に止めるショット)を次々と中心に決めてきました。

「相手は決める、こちらは決まらない」

この小さなズレが積み重なり、第8エンドの致命的なスチール(1失点)に繋がりました。

3-9というスコアは、この「適応力の差」が如実に表れた結果と言えます。

4. 「最後まで諦めない」は間違い?カーリング精神「Spirit of Curling」の美学

日本のスポーツ教育、特に部活動などでは「最後まで諦めない」「奇跡を信じて泥臭くやる」ことが美徳とされがちです。

しかし、カーリングにはそれとは異なる、スコットランド発祥の貴族的な精神性が根付いています。

WCFルールブックに刻まれた「カーリング精神」

世界カーリング連盟(WCF)の競技規則の冒頭には、「The Spirit of Curling(カーリング精神)」という項目が明記されています。

これは単なるマナー集ではなく、競技の根幹をなす哲学です。

「カーラーは、勝つために不当な手段を用いるよりは、むしろ負けを選ぶ。(中略)カーリングの主な精神は、競技場における紳士的態度と、親切で高潔な行いを求めることである。」
引用元:日本カーリング協会競技規則(前文)

この精神に基づくと、以下の行為は「アン・スポーツマンライク(スポーツマンらしくない)」とみなされます。

  • 相手が明らかにミスをしない限り逆転不可能な状況で、相手を氷上に拘束し続けること。
  • 勝敗が決しているのに、相手の集中力を削ぐような無意味なプレーを繰り返すこと。

つまり、カーリングにおいては「潔く負けを認めること」こそが、相手への敬意の表現であり、高潔な態度なのです。

「グッド・ルーザー(良き敗者)」であれ

欧米のスポーツ文化には「Good Loser(グッド・ルーザー)」という言葉があります。

「負ける時は、言い訳せず、相手を称えて堂々と負けなさい」という教えです。

コンシードの際、負けたチームのスキップから先に手を差し出すルールは、まさにこの「グッド・ルーザー」の実践です。

昨日の日本代表が見せた、悔しさを押し殺して笑顔で握手をする姿。

あれは「諦めた」のではありません。

「私はグッド・ルーザーとして、あなたの勝利を尊重します」という、世界に誇れる立派な態度だったのです。

5. 次戦・中国戦と2030年への展望:既に始まっている改革

このイギリス戦での敗北により、日本代表(フォルティウス)の通算成績は1勝7敗となりました。

既に敗退が決まった中での連敗は精神的にも厳しいものがありますが、彼女たちの視線は既に「次」へと向いています。

最終戦は「中国」とのアジア対決

次戦は2月19日(現地時間)、中国代表との最終戦が行われます。

中国はアジアパシフィック枠を争う長年のライバルです。

サードの小野寺佳歩選手が「残り試合を準決勝、決勝の気持ちで戦う」と語ったように、最後の1試合まで「日本らしい粘りのカーリング」を見せてくれるはずです。

2025年に発表された「2030年五輪」への新選考基準

今回の五輪の結果に関わらず、日本カーリング界は既に次の時代への変革期に入っています。

日本カーリング協会(JCA)は2025年10月に、2030年フランス・アルプス五輪に向けた新たな代表選考基準を発表済みです。

これまでの「一発勝負」に近い選考会形式から、以下のような長期的な視点への転換が図られています。

  • 4年間の実績重視: 2026年から2029年までの国際大会での成績をポイント化し、継続的に結果を残したチームを評価する。
  • 世界ランキングの向上: 国内だけでなく、ワールドツアーなどで世界ランキングを上げることが代表への必須条件となる。

今回のフォルティウスの挑戦はここで一区切りとなりますが、彼女たちが世界で戦った経験や、リザーブから急遽出場した小林未奈選手の奮闘は、この新しい選考プロセスの中で必ず生きてきます。

今の悔しさは、4年後のより強い日本代表を作るための糧となるでしょう。

まとめ:握手は「終わり」ではなく「称賛」の合図

今回は、2026年ミラノ五輪で話題となったカーリングの「コンシード」について、日本対イギリス戦のファクトに基づいて解説しました。

最後に要点を振り返りましょう。

本記事のポイント

  • コンシードの真実: 諦めではなく、相手の実力を認める「最大のリスペクト」。
  • 敗戦の背景: スキップのショット成功率の差と、変化するアイスへの適応苦。
  • ルールの順守: 予選リーグの規定(6エンド終了後可能)に則った正当な判断。
  • 敗退後の戦い: 既に敗退が決まった中でも「準決勝のつもりで」戦う姿勢。

 

昨日の日本対イギリス戦のラストシーン。

あの握手は、日本代表の「降参」の合図ではなく、世界最高峰の戦いを繰り広げたイギリス代表への「賞賛」の拍手だったのです。

ルールと精神を知れば、突然の試合終了も、実はとても感動的なスポーツマンシップの瞬間であることがわかります。

日本代表の最後の戦い、そしてこれからのカーリング界に、私たちも最大限の拍手を送りましょう。

 - スポーツ・人物 , , , , , , , , ,